
Cartken、産業用ロボットへ戦略転換。三菱電機グループから大型受注を獲得
Cartken、産業用ロボット市場へ本格参入 三菱電機グループから大型受注を獲得
自律走行ロボット分野の先駆者であるCartken社は、これまでのラストマイル配送(=商品やサービスを最終目的地である消費者の手元に届ける、配送プロセスの最終区間)に軸足を置いた事業展開から、成長が期待される産業用途へと戦略的なシフトを図ります。すでに実証された市場ニーズに応えるかたちで産業分野に本格参入し、三菱電機グループ企業からの大口受注によってその方向性が裏付けられました。
この戦略転換を支えているのは、都市部での複雑な配送ニーズに対応するために開発された同社独自の高度なAI技術です。この技術を製造現場や物流施設に展開することで、業務の効率化とワークフロー最適化を実現します。
産業オートメーションへの戦略的シフト
共同創業者兼CEOのクリスチャン・バーシュ氏は、産業用途での活用はCartken社の創業当初から視野に入れていた戦略の一環であると述べています。工場や研究施設におけるロボット導入の可能性を見据えた中で、近年、構内物流(マテリアルハンドリング)の最適化を目指す企業からの問い合わせが急増したことが、戦略転換を後押しする決定的な要因となりました。
2023年には、ドイツの大手製造企業ZF Lifetec社を初の主要産業顧客として獲得。Cartkenの標準モデル「Courier」が、生産サンプルの搬送において高い稼働率を即座に示したことで、実運用に耐える実力が証明されました。この成功体験を契機に、Cartkenは産業向けソリューションへの本格展開に踏み切りました。
実績あるAIプラットフォームの活用
Cartkenの競争力の核心には、Uber Eatsなどとの協業で実環境下の豊富なデータから鍛えられた堅牢なAIナビゲーション技術があります。東京の混雑した市街地といった予測困難な環境でも安定して走行できる技術は、変化が激しい産業現場にも容易に適応可能です。
この汎用性の高いAIプラットフォームにより、Cartkenはロボットのサイズや機能に応じたモデル開発を効率的に進めています。バーシュ氏によれば、設定値(パラメータ)の調整のみで中核のAI・機械学習モデルを他の機体に移植できる仕組みが整っており、産業向け製品群の迅速な開発が可能となっています。
製品ラインナップの拡充と今後の展望
新たな産業市場のニーズに応えるべく、Cartkenは468 Capitalやインキュベイトファンドなどから2,000万ドル(約30億円)超の資金調達を実施。以下の産業用モデルを新たに投入しました。
Cartken Hauler:最大660ポンド(約300kg)の資材を運搬できる堅牢設計。建物間の資材輸送を想定。
Cartken Runner:施設内での屋内配送に特化したコンパクトモデル。
また、今後はフォークリフト型の新型ロボット開発にも着手しており、産業分野での構内物流需要にさらなる対応を図ります。
三菱電機グループとの連携による市場展開
こうした製品戦略の裏付けとして、Cartkenは三菱電機グループとの協業を拡大。メルコモビリティソリューションズ株式会社が、日本国内の産業施設向けにCartken Haulerを約100台発注しました。この提携は、自動車業界から製薬業界に至るまで、同社の技術が幅広い分野で評価されていることを示す象徴的な成果です。
なお、既存のラストマイル配送事業は継続されるものの、今後は主に新機能のテストやプロトタイプ開発の場として活用される予定です。
まとめ:本事例が示すビジネスの要点
Cartken社の戦略的な事業転換は、急速に変化する市場においてテクノロジー企業が持続的に成長するうえでの重要な示唆を提供しています。
市場ニーズへの柔軟な対応
当初の事業に固執せず、実際の顧客からの明確な需要を基に軸足を移す“ピボット”の重要性を体現しています。BtoC寄りのラストマイル配送に比べ、BtoBである産業オートメーションの方が収益性の見込みが高いという判断も注目に値します。
コア技術の水平展開による成長加速
一つの領域で磨き上げたAI技術という無形資産を、別の成長分野に応用することで、開発投資の効率を最大限に引き出すことが可能であると証明されました。自社技術の再評価と新たな適用先の模索は、大きな成長機会を生み出す可能性があります。
成果に基づいた事業拡張
初期顧客での成功事例が、その後の大型提携(三菱電機グループ)を引き寄せる“実績起点型”の拡大戦略が有効であることを示しています。地道な成功の積み重ねが、次の成長ステージを導く鍵となるでしょう。
戦略的パートナーシップの効果
スタートアップが大手企業と提携することで、信頼性の補完と市場浸透の加速を同時に実現できるという好例です。単独では難しい市場開拓において、パートナーシップは極めて有力な戦略となり得ます。
本事例は、自社の保有技術や事業資産をいかにして新たな成長ドライバーへと転換していくかという問いに対し、多くの示唆を与える内容だと言えるでしょう。